| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-174 (Poster presentation)
淡水産枝角類(Crustacea: Cladocera)は、形態の可塑性が著しいため種判別が非常に難しい。そのため種判別に分子系統解析が用いられるようになり、その結果、淡水産枝角類の分類は世界的に再整理されつつある。また分子系統解析を併用した結果、以前から種判別に用いられてきた形態形質が、種判別には不適切であると判明した例も散見される。ただし再整理の進行状況は分類群間で大きく異なり、Daphnia属(ミジンコ属)など比較的大型の(かつ研究者が多い)タクサでは進んでいるが、Ceriodaphnia属(ネコゼミジンコ属)などの小型の(そしてマイナーな)枝角類では著しく遅滞している。本研究では、日本に出現するネコゼミジンコ類の分類をDNAバーコーディングと形態解析の双方から再検討した上で、種ごとの地理分布を包括的に整理した。2003年以降に行った野外調査でネコゼミジンコ属が採集された湖沼・溜池・池塘・水田は合計で約100ヶ所におよび、ネコゼミジンコ属は9種が確認された。これに国立環境研究所などで維持されている1種(C. dubia NIES系統、これはUS-EPA由来の種)を加えると、日本に存在するネコゼミジンコ属は合計10種であることがわかった。ただし山地の池塘に出現するC. megops(と扱われているタクサ)は1種ではなく、多くの隠蔽種を含む可能性が高い。本邦にて、最も多くの地点(37地点)から出現した種では、DNAバーコードが北米から登録されている配列とほぼ相同であり、ハプロタイプ多様度や塩基多様度も、他の本邦産種での数値よりも著しく低かった。これらの結果から、日本で最も優占するネコゼミジンコ種は、北米からの外来種であると推察された。北米のこのタクサのDNAバーコードにはC. dubiaという学名が付与されているが、本邦の個体の形態はC. dubiaとは一致しない点が多く、その正体はいまのところ不明である。