| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-179 (Poster presentation)
日本の草原の多くは、草刈り・放牧・火入れなどの人為的攪乱によって維持されてきた。しかし農業の近代化や生活様式の変化による需要低下や利用放棄、宅地や農地への土地利用の転換等に伴い、国土の1%程度の面積にまで減少している。草原に支えられてきた生態系サービスは多く、茅葺き屋根、盆花、秋の七草、野焼きや刈取り等の共同管理による相互扶助的な地域コミュニティの形成などの文化的サービスにも寄与してきた。社会の変化に伴う草原利用の減少は、生物多様性の消失を招くと同時にこのような文化的サービスの質を変化させている可能性がある。
本研究では、日本の草原の代表的な利用方法である茅場に注目し、茅場としての管理が草原の生物多様性保全に寄与するかどうかを検討するため、茅場の植物の多様性と茅の質との関係について調べた。茨城県南部の霞ケ浦南岸沿いに位置する妙岐ノ鼻と、過去に霞ケ浦湖岸沿いにあった上之島の2か所の茅場を対象地とした。「シマガヤ」と呼ばれる、カモノハシを主とするイネ科で構成された茅を採取している湿性草原の茅場であり、年一回の茅採取(12月~2月頃)と野焼き(3月頃)が行われている。植物の多様性の評価には、妙岐ノ鼻については、昭和56年から独立行政法人水資源機構により行われている植生調査の結果を用いた。また、上之島ではこれまでに調査が行われていなかったため、2022年10月に植生調査を実施した。多様性の評価はShannon-Weaverの多様度指数を、茅材としての質の評価は4m2のコドラートにおけるカモノハシの被度を使用した。
評価の結果、全体におけるカモノハシの被度の割合が高いほど多様度も高くなる傾向がみられた。上之島においては、カモノハシの被度が高い場所では在来種が多く確認され、多様度が高かった。茅材としての質と植物の多様性は相互に関連しており、茅場を維持することが地域の生物多様性に寄与する可能性が高いことが示された。