| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-181 (Poster presentation)
ニホンザルの屋久島亜種(ヤクシマザル)は、本州・四国・九州およびそれらの周辺の島嶼に分布する基亜種と比較して遺伝的多様性が非常に低く、また頭蓋形態や体毛色に違いがあることが知られている。しかし、その起源や集団の成り立ちについては十分に理解されていない。本研究は、屋久島集団とその他の地域集団との系統関係、および各地域集団の集団サイズの変遷を明らかにすることを目的とした。データベースから取得した近縁種アカゲザルとタイワンザルの配列データに加え、ニホンザルの4集団(屋久島、幸島、高知、山形)12個体について全ゲノムリシーケンスを行った。得られた配列データをアカゲザルの参照配列にマッピングし、多型を探索した。近隣結合法と系統ネットワークによる系統解析の結果、屋久島系統はニホンザルが東西の系統に分岐した後にその西系統から派生したことが示された。PSMCおよびSMC++による集団動態解析を行った結果(世代間隔を7年、世代あたり・サイトあたりの突然変異率を1e-8と仮定した)、数万年から10万年ほど前にかけて屋久島集団のみに集団サイズの極度の減少が観察された。1–2万年ほど前にもニホンザルに共通する集団サイズの縮小が起こったが、その後はいずれの系統にも明瞭なボトルネックは観察されなかった。従来、屋久島集団の非常に低い遺伝的多様性は約7300年前の鬼界カルデラの噴火に起因するとされてきたが、それ以前にも、何らかの局所的な要因が屋久島集団の生存に大きな影響を与えた可能性がある。