| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-182 (Poster presentation)
毒を持つ複数の種が類似した警告シグナルを共有することで捕食者の忌避学習を促し、捕食から逃れるミュラー型擬態では、その相利性から、警告シグナルは単一のものへと収束すると予測される。しかしながら、警告シグナルに多様性が見られる例があり、その進化機構は議論の的となっている。青酸系の毒を持つババヤスデ属のミドリババヤスデ種複合体とアマビコヤスデ属は、本州中部から九州にかけて分布が重なり、共によく似た灰色の体色を呈する。体色反射波形を用いたJND解析から、灰色は主要な捕食者と想定される鳥類に対して自然背景からよく目立つと推定された。これらのことから、この体色の類似はミュラー型擬態環と考えられる。これらヤスデ類について、RAD-seq系統樹を用いた体色の祖先状態復元の結果、東海、関西地方に生息するミドリババヤスデ種複合体において、灰色擬態環からの離脱(非擬態型オレンジもしくは非擬態型の灰色とオレンジの中間色への移行)、別のオレンジ擬態環への移行といった、多様性を示す稀な進化パターンが推測された。多くの場合、灰色とオレンジの間の体色移行は中間色を介している。灰色、中間色、オレンジの集団が、地理的にモザイク状に分布しているのも特徴である。灰色、中間色、オレンジの各モルフの成体個体数比(採集1時間あたりの集団成体個体数に基づく)は、灰色:中間色:オレンジ=1:1.6:0.4であり、集団数比は、灰色:中間色:オレンジ=1:0.5:0.8となり、特定のモルフにアバンダンスが大きく偏っているわけではない。また、ハエ類の捕食寄生が灰色モルフに偏っていることがわかっている。これらのことから、各体色モルフ間の適応度に大きな差はなく、体色モルフ間の移行が、灰色⇄中間色⇄オレンジのパターンで起こりやすいという条件下で、ハエ捕食寄生を一つの要因として、擬態環に地理的なモザイク状の多様性が生じていると考えられる。