| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-186 (Poster presentation)
日本列島において草原は明治初期には国土の3割近くを占めていたという推定もあるが、近代の開拓や土地利用の変化によって草原とそこに依存していた草原性生物の多くが激減している。生息地の分断化や縮小化が進むと、遺伝的多様性の消失による負の影響を招く恐れがあり、遺伝的多様性の維持に配慮したモニタリングと管理が必要である。
アサマシジミ北海道亜種(Plebejus subsolanus iburiensis)は北海道の草原環境を象徴する蝶であるが、近年急速に生息域が縮小し、2016年に北海道の蝶類としては初めて種の保存法に基づく「国内希少野生動植物種」に指定された。本研究ではアサマシジミの北海道集団および本州、ロシア東部(ウラジオストク・ハバロフクス・サハリン)といった環日本地域の集団を網羅し、MIG-seq法およびlow coverage Whole Genome sequencing (lcWGS) 法によるゲノムワイドな遺伝的集団構造の解析を行った。lcWGS法では北海道の絶滅個体群を含む1957-2003年の標本についても解析した。その結果、両手法によるゲノムワイドなSNPデータに基づくと、北海道集団は本州・サハリン・大陸の系統とは明瞭に区別でき、意外にもサハリンと近縁ではなかった。北海道内においては、現在も残存する3つの主要な地域個体群に応じた遺伝的集団構造が存在することが確認された。また、北海道集団の遺伝的多様度は環日本海地域で最も低く、近年の地域個体群の絶滅によって低下傾向にあることも示された。一方で、lcWGS法で得られたミトコンドリアゲノムの解析から、北海道集団には北海道独自系統に加えて大陸に近年な系統も保有されていることが明らかとなり、絶滅個体群を含め、地域によってハプロタイプ頻度に差があることが確認された。アサマシジミ北海道亜種について今後は、遺伝的集団構造や各地域個体群の遺伝的多様性を考慮した保全管理が推奨される。