| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-188 (Poster presentation)
哺乳綱食肉目では、完全な肉食、雑食、ほぼ完全な植物食など、さまざまな食性の種が見られる。食性は、形態の進化に関与すると期待される。食物の獲得および処理の効率には咬合力(上下の歯で物を咬む力)が大きな役割を果たし、咬合力は頭骨の形態に左右される。咬合時、顎はレバー(てこ)として作動し、顎関節が支点、顎を動かす筋肉が力点、歯が作用点、顎関節から歯までの距離がアウトレバーアーム、顎関節から筋肉までの距離がインレバーアームに相当する。顎関節から歯までの距離が相対的に短い(インレバーアームに対してアウトレバーが短い)ほど、筋肉で加えられた力が大きな咬合力に変換される。その一方で、顎関節から歯までの距離が長いほど、顎を閉じる速度が速くなり、また、口を大きく開くことができる。
食肉目(鰭脚類を除く)145種の頭蓋標本において、顎関節から大臼歯後端、大臼歯前端・裂肉歯後端、裂肉歯前端および犬歯の各位置までの距離をアウトレバー、顎関節から側頭筋の位置までの距離をインレバーとして計測した。これらの相対的な距離と食性との関係を系統種間比較によって分析した。
顎関節から大臼歯後端までの相対的な距離は、葉食で最も短く、次いで水生動物食で短かった。このことは、繊維質の植物および硬い殻を持つ貝類や甲殻類の摂食が、大臼歯での咬合力を増大させられる形態への進化を促すことを示唆している。大きな獲物を摂食する肉食動物では、顎関節から裂肉歯後端までの距離が短く、大きな動物の肉を裂肉歯で切り裂くのに適した形態に進化していることが示唆された。肉食動物の犬歯は、主に獲物を捕らえる際に使われ、イヌ科の中では、大きな獲物を捕食する肉食動物で、顎関節から犬歯までの相対的な距離が短かった。しかし、この関係は、食肉目全体では検出されなかった。このことは、イヌ科と他の科(ネコ科など)の捕食行動のちがいに関連すると考えられる。