| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-189  (Poster presentation)

海洋島で雌雄異株化したムラサキシキブ属における性決定ゲノム領域の特定
Identification of the sex-determination region in Callicarpa subpubescens, a plant species acquired a dioecious breeding system in oceanic islands

*増田和俊(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学), 長澤耕樹(京都大学), 鈴木節子(森林総合研究所), 久保田渉誠(株式会社ファスマック), 佐藤真(株式会社ファスマック), 阪口翔太(京都大学)
*Kazutoshi MASUDA(Kyoto Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.), Koki NAGASAWA(Kyoto Univ.), Setsuko SUZUKI(FFPRI), Shosei KUBOTA(Fasmac Co., Ltd.), Shin S SATOH(Fasmac Co., Ltd.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.)

世界各地の海洋島で共通して見られる植物相の特徴として、雌雄異株植物の割合が大陸と比べて高いことが挙げられる。その背景のひとつには、島嶼内での他殖を促す進化的圧力により、両全性等の性表現から雌雄異株への進化が生じたことが関係していると考えられている。日本の小笠原諸島でも雌雄異株植物の割合が本土と比べ高い。その中でもオオバシマムラサキを含む諸島固有のムラサキシキブ属(シソ科)3種は、世界で約140種を有する本属で唯一の雌雄異株であることから、両全性の祖先種が諸島に移入した後に雌雄異株化した系であると考えられる。そこで、本研究ではオオバシマムラサキを対象として、両全性から雌雄異株への進化過程でどのような性決定機構を新たに獲得したのかを全ゲノム解析から明らかにすることを目的とした。最初にオオバシマムラサキの性決定領域を特定するため、新規に染色体規模の参照ゲノム配列を雌雄別に構築し、Pool-seq法で雌雄の全ゲノム比較を行った。その結果、10番染色体上で約80万bpにわたって雌雄ゲノム間で高度に分化した領域が検出され、この領域が本種の性決定領域であることが示唆された。本領域のアレル頻度や構造変異を雌雄間で比較したところ、オオバシマムラサキは雄ヘテロ型(XY型)の性決定様式を持つことが推定された。遺伝子予測の結果、Y型の性決定領域上に34個の遺伝子が見つかった。その中には花粉発芽口形成に関わる遺伝子INAPERTURATE POLLEN 1INP1)が含まれ、本種の雌が作る不稔花粉の表現型変異との関連が疑われたことから、雄性不稔因子の有力候補と考えた。CsINP1のコーディング領域の配列をサンガーシークエンス法で調べたところ、Y型では祖先型ハプロタイプに固定していた一方、X型では9座位で非同義置換が生じていた。この結果からCsINP1はX型性決定領域で偽遺伝子化しており、それが雌個体における雄機能喪失をもたらした可能性が示唆された。


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