| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-190 (Poster presentation)
小笠原諸島のムラサキシキブ属は小笠原諸島全体に分布するオオバシマムラサキ(以下オオバ)と、父島列島にのみ分布するウラジロコムラサキ(以下ウラジロ)、シマムラサキ(以下シマ)の3種に分化している。先行研究より、母島列島のオオバは葉の星状毛の有無、開花期、個体サイズなどが異なる4つのエコタイプ(無毛、高木、矮性、中間)に分化していることが明らかになっている。本研究では、小笠原諸島のムラサキシキブ属3種を対象にRADシークエンスを行い、種およびオオバ種内のエコタイプ分化のパターンと分化の時期を調べた。解析に用いた集団は種、エコタイプ、地域が異なる、ウラジロ(兄島、父島)、シマ(兄島、父島)、オオバ(兄島、父島、聟島高木、聟島無毛、母島無毛、母島高木、母島矮性、母島中間、妹島無毛、妹島矮性)の14集団である。これらの14集団は、種、エコタイプ、地域に対応した9つのグループに分けられ、そのうちオオバ母島中間は、オオバ母島無毛とオオバ母島高木の間の交雑に由来することが明らかとなった。交雑起源のオオバ母島中間を除いた系統解析では、ウラジロ+シマ+オオバ父島+オオバ無毛のクレード1と、オオバ高木+オオバ矮性のクレード2に分かれた。クレード1はウラジロ+シマとオオバ無毛のサブクレードに分かれ、クレード2はオオバ高木とオオバ矮性のサブクレードに分かれた。これらの結果を元に父島・母島列島に生育する6グループ間で集団動態解析を行った結果、約17万年前にオオバ高木が分化し、その他の種およびエコタイプは約7.3-7.7万年前に一斉に分化したことが明らかとなった。一斉分化の時期は最終氷期であるウルム氷期が始まったとされる時期であり、寒冷化が引き起こす環境の変化がムラサキシキブ属の適応放散的種分化に寄与したのではないかと考えられた。