| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-194 (Poster presentation)
モデル植物の近縁野生種であるミヤマハタザオ(Arabidopsis kamchatica subsp. kamchatica)は,本州中部の山岳地域において標高30–3000mまでの幅広い標高域に生育し,異なる山域にわたって標高の違いによる局所適応が起こっていることが共通圃場実験および相互移植実験で示されている.本研究では,本州中部の幅広い標高帯に分布するミヤマハタザオ25集団を対象に,RAD-Seqで得られた一塩基多型(SNPs)を用いて集団遺伝学的解析をおこない,進化イベントとしての標高適応がどのような時空間スケールで生じたのかを検討した.なおミヤマハタザオは異質四倍体であるため,事前に交雑親種の参照配列を用いてサブゲノム間で重複した遺伝子(ホメオログ)を識別し,サブゲノムの帰属性が判別されたSNPsを集団遺伝学的解析に用いた.解析の結果,本州中部のミヤマハタザオにはおおむね3つの系統が存在し,各々の系統が幅広い標高域に分布していることが明らかになった.さらにコアレセントシュミレーションによる集団動態モデリングを用いて系統分化パターンを検討したところ,まず2つの系統に分化した後,片方の系統が更に北・中央アルプスの系統と南アルプスの系統に分化したシナリオが最適と推定された.残りのもう片方の祖先的な側系統では,本州中部北部および南アルプスの石灰岩地に散在的な分布が認められた.ミヤマハタザオの世代時間を2年と仮定すると,最初の分岐年代は4–5万年前,2回目の分岐年代は1.5–2万年前と推定される.これらの集団動態モデリングの結果と現在の標高分布パターンに基づいて,ミヤマハタザオにおける標高適応の進化シナリオについて議論をおこなう.