| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-199 (Poster presentation)
近年、カワヒバリガイLimnoperna fortunei は日本各地の河川や湖沼などに分布を拡大し、水路や貯水池などの水利施設で通水障害を引き起こしている。本種は生活史の初期に浮遊幼生期を持ち、河川や水路などを経由して分布拡大が生じている。そのため、浮遊幼生の段階で幼生を水中から除去することで、その侵入・拡大を阻止することは原理的に可能である。しかし、この技術は国内の淡水域での知見が少なく、特に農業水利施設を対象とした導入事例は我々の知る限り存在しない。そこで、ヨーロッパでカワホトトギスガイDreissena polymorpha を対象とした浮遊幼生除去のために導入されている自動洗浄濾過システム(フィルター目合80-150µm、濾過水量約50〜80 m3/h)をカワヒバリガイの発生した貯水池の湖岸に設置して通水試験を実施し、本装置によるカワヒバリガイ付着防止への効果を評価した。
試験の結果、濾過装置を通過させた管内のカワヒバリガイ密度は、原水を通過させた管内に比べ1/14〜1/7に減少し、装置の導入による付着密度低減効果が示された。しかし、濾過装置を通過した水の浮遊幼生密度はほとんどの期間有意に減少せず、濾過装置を通過した水中からも生きた幼生が確認された。フィルターの目合を80µmに変更した試験では一時的に幼生密度が減少したものの、装置の目詰まりが高頻度に発生し、安定した運用が困難な状況になった。
この結果から、今回の装置の設定では濾過装置下流近くの施設における密度低減は期待できるものの、地域への侵入抑止といった効果を期待することは困難であることが示された。農業利水では十分な通水量が確保できない装置の導入は現実的ではない。十分な通水量を確保した高い駆除効果を達成するためには、フィルターの改良に加え他の技術との併用を検討することが望ましいと考えられた。