| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-203 (Poster presentation)
アライグマ(Procyon lotor)は食肉目アライグマ科に属し、北米から日本へ導入された外来種で特定外来生物に指定されている。本種による農業被害や家屋汚損等の生活被害は各地で顕在化し、都市近郊を中心に感染症の媒介動物としての懸念も高まっている。生態系への問題には、在来種の捕食事例や在来種との競合を示唆した研究が知られる。都市近郊では孤立した緑地がみられ、アライグマによる捕食は在来種の存続に強い悪影響を及ぼす可能性がある。また、個体の性別や年齢により季節的な食性が異なれば、分析結果の解釈においても留意が必要となる。そこで本研究では、東京都西部の緑地で捕獲されたアライグマを対象として、各個体の性年齢に着目し食性の季節変化を明らかにすることを目的とした。2020年6月から2021年11月までに捕獲された個体のうち52頭の性別の判定及び齢査定を行い、齢区分は5ヶ月齢未満、5-11ヶ月齢、12-23ヶ月齢、24ヶ月齢以上に設定した。食性分析は各個体から胃と直腸を採材し、内容物を1㎜格子のふるいで水洗後、5㎜格子の方眼シャーレ上で実体顕微鏡を用いてポイント枠法により各分類群の量的評価を試みた。季節は3-5月を春、6-8月を夏、9-11月を秋、12-2月を冬と定義した。本研究では、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類を捕食した痕跡は検出されなかった。検出例の多かった節足動物のカウント数を目的変数、季節・性別・齢区分を説明変数として一般化線形モデルで解析した結果、夏(p < 0.001)及び雌(p < 0.001)で多く、また5ヶ月齢未満では他の齢区分より少ない(全てp < 0.001)ことが示された。季節性は環境中の節足動物の存在量を反映したとみられるが、性別や齢区分における違いは本種の性年齢ごとの採食行動や消化生理の影響が示唆される。今後の食性分析においては性別や年齢などの個体特性を考慮する必要性があることを提言する。