| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-206 (Poster presentation)
ニホンヤモリは古い外来種だった―。日本民家の“隣人”としてお馴染みのニホンヤモリは、日本に稲作が伝播したのとほぼ同時期の約3000年前に中国から侵入し、日本社会の発展と密接に関わりながら人為的にその分布を西から東へと広げていった(Chiba et al. 2022)。家の守り神たる隣人と、我々は今後どのように付き合っていけばよいのだろうか?ニホンヤモリの遺伝子には日本社会の歴史が刻み込まれており新たな文化的価値が見出された一方で、彼らが真に在来生態系に影響を与えない中立種であるかという点については疑問視されている。すなわち、ニホンヤモリが外来であると分かった以上それが侵略的であるか否かということは今後の保全において考えなくてはならないことである。
そこで本研究ではニホンヤモリとの潜在的な競合性が疑われる日本固有の同属種ニシヤモリを対象に、ニホンヤモリとの現在及び過去の競合性について検証した。まず、ニホンヤモリは現在見かけ上中立であるが、侵入当初は現在の侵略種同様に侵略性を発揮していたとする仮説を立てた。これを検証するため、現在ニシヤモリが生息する有人島のうちニホンヤモリが侵入している長崎県の五島列島及び平戸島と、ニホンヤモリ非定着地域である鹿児島県の甑島それぞれのニシヤモリ個体群についてddRAD-seqによる集団動態推定を行った。さらに生息適地モデリングやマイクロハビタット利用から両者のニッチ分化度合いを解析した。各結果から両者は潜在的に競合関係にあり、ニホンヤモリの侵入によってニシヤモリの分布が局所化したことが示唆された。つまり、ニホンヤモリは過去の侵略的外来種であった可能性が浮上したのである。
歴史とは得てして闘争の勝者によって書き換えられるものであり、敗者の情報はその多くが失われてしまいがちである。日本人とニホンヤモリの間に築かれてきた長きに渡る親愛は、まさしく“勝者によって書かれた歴史”であったのかもしれない―。