| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-207 (Poster presentation)
騒音が都市域の生物に与える影響については近年多くの知見が蓄積されつつあり、昆虫類においては交通騒音が鳴く虫(コオロギ・キリギリス類)の音響交信を阻害することが知られる。一方で、外来生物が生み出す騒音が在来生物に与える影響は明らかになっていない。
アオマツムシは明治期に大陸から移入した外来昆虫であり、秋季に多数の雄が大音量で合唱するため、都市の騒音問題の一つとなっている。多摩地域においては街路樹や公園等に高密度で生息しており、秋繁殖する在来種と長期間に活動が重複する。本研究では夜間にオスの鳴き声を聞き取って鳴く虫の出現種と個体数を記録し、環境要因とアオマツムシ量による影響についてGISを用いて解析した。また、アオマツムシ合唱木からの距離減衰、在来種オスが鳴いている場所の騒音レベルを測定した。騒音の音量に伴う行動の変化をみるため、防音室内でカネタタキのオスに合唱木から0m、10m、20mの距離に相当する音量に調整した合唱音を聞かせ、音源下でのオスの鳴き声を録音してチャープとパルス数を計測した。
在来種の種数は住宅など環境要因からの影響が大きいが、個体数はアオマツムシ量(騒音)の影響を受けていると推定された。在来14種の鳴き場所における騒音レベルはほぼ全個体で70dB以下であり、合唱の音量が減衰した場所で鳴く傾向にあった。室内実験においてカネタタキは騒音の音量が高いほど鳴くのを中断する個体が増加し、呼び鳴きの回数とチャープ当たりのパルス数が減少した。
これらの結果から、アオマツムシが多い街路樹や樹林環境では、周囲に生息する他種オスが求愛場所として利用できるハビタットが狭まっているものと考えられる。オスの呼び鳴き頻度の低下はメスと遭遇する機会の喪失をもたらすため、アオマツムシによる騒音は在来の鳴く虫の生息場所や繁殖行動を撹乱している可能性がある。