| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-216 (Poster presentation)
人口減少時代においても人手をかけずに維持できる防災施設として、広葉樹の海岸林が検討されている。そのため、クロマツ海岸林や内陸の広葉樹林と立木の動態を比較して、広葉樹海岸林の安定性を評価した。四国太平洋岸に成立する4つの海岸林に調査区を設定して6年間の立木動態を調査した。大岐の浜(広葉樹林)、入野松原(広葉樹林・クロマツ林)、琴ヶ浜(クロマツ林)、および大里松原(クロマツ林・広葉樹林)を対象とした。各海岸林に20m幅で林帯を縦断する調査区を3本ずつ設置し、胸高直径5cm以上の立木について2年ごとに計4回の毎木調査を実施した。その結果、クロマツ林では海岸林ごとに死亡率が大きく異なり、マツ材線虫病により高い死亡率となった海岸林や死亡率を低く抑えて林分の成長をもたらした海岸林があった。マツ材線虫病への対策を誤った場合には20%前後のきわめて高い死亡率となった。一方、広葉樹林では高潮による被害を除きいずれも死亡率は低く、大岐の浜では2.2±0.6%、入野松原では1.6±0.6%であった。新規加入率については、クロマツ林では植栽苗が生長して一斉に加入した場合には5から10%ほどの高い値を示すものの、新規加入木がほとんどないことが多かった。一方、広葉樹林では下草刈りがなく積極的に管理されていない大岐の浜で2.3±0.7%、下草刈りがおこなわれる入野松原で0.5±0.4%と管理体制を反映して値が異なった。四国西部内陸の成熟した広葉樹二次林(市ノ又試験地、高知県四万十町)では死亡率・新規加入率の順に1.6±0.5%・1.8±0.8%となり、大岐の浜では両方ともやや大きな値、入野松原では死亡率は同等だが新規加入率はかなり小さいといえた。クロマツ海岸林にはマツ材線虫病という大きな変動要因がある一方で、広葉樹海岸林の動態は比較的に安定していると考えられた。