| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-222 (Poster presentation)
近年,国内のゲンゴロウ科の多くは個体数が減少しており,保全が急務とされている.一般的に捕食性昆虫類の個体群サイズは餌資源量によって制限される.また,ゲンゴロウ科の幼虫においては種によって餌の好みが異なることや,餌動物の種類が成長率,生存率に影響を与える.したがって,生息域内保全のための生息地の再生,ならびに生息域外保全を見据えた飼育繁殖には保全の対象となる種の幼虫期の食性解明が不可欠となる.トビイロゲンゴロウCybister sugillatusは南西諸島の池沼や水田に生息し,沖縄県RDBでは準絶滅危惧に選定されている.多くのCybister幼虫は主に昆虫類を捕食し,オタマジャクシは餌として適さないことが知られているが,トビイロゲンゴロウの食性は不明である.そこで本研究では飼育下において異なる餌(ヤゴ,オタマジャクシ,そしてペットの餌として市販されている冷凍コオロギ)を与え,生存率,幼虫期間,羽化した成虫の体サイズを比較することでトビイロゲンゴロウ幼虫の食性を明らかにすることを目的とした.ヤゴのみ,オタマジャクシのみ,ヤゴとオタマジャクシの混合,冷凍コオロギのみを与える4つの処理区を設け,幼虫を飼育した.その結果,オタマジャクシのみでは成長せず,ヤゴ,混合,冷凍コオロギで成長した.これらの処理区での生存率および成虫の体サイズに差は認められなかった.また,混合処理区ではオタマジャクシよりもヤゴを多く消費した.そのため,トビイロゲンゴロウ幼虫は他のCybister幼虫と同様に昆虫類食性であることが示唆された.トビイロゲンゴロウの生息域内保全ではヤゴなどが豊富な生息環境の再生を行い,生息域外保全では代替餌である冷凍コオロギを与えることによる持続的な飼育繁殖を行っていく必要がある.