| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-226  (Poster presentation)

沿岸部と山間部に生育するハナハタザオの形態比較
Morphological comparison of Dontostemon dentatus growing in coastal and mountainous areas

*川田清和, 大塚千尋(筑波大学)
*Kiyokazu KAWADA, Chihiro OTSUKA(University of Tsukuba)

植物の中には沿岸部や内陸部のように地理的に隔離された個体群が存在し、異なる環境に適応した形質を獲得していると考えられる。とくに地理的に隔離された絶滅危惧種は遺伝的交流が少ないため、表現形質の差として現れる可能性が高い。そこで本研究は、絶滅危惧種であるハナハタザオ(Dontostemon dentatus)について沿岸部と山間部の個体群間で形態比較を行い、環境適応との関係性を明らかにすることを目的とした。ハナハタザオは、環境省絶滅危惧IA類に分類され、茨城県・山梨県・熊本県の3ヶ所に分布する。本試験では、茨城県(沿岸部)と山梨県(山間部)でハナハタザオと表層土壌を採取し、葉のSPAD値、葉の厚さ、土壌のpH・EC・交換性ナトリウム濃度について計測した。計測の結果、SPAD値は、海岸個体が40.98 ± 10.69で内陸個体は39.44 ± 4.51で有意差が認められた(p < 0.05)。葉の厚さは、海岸個体が0.51 ± 0.12 mmで内陸個体は0.47 ± 0.037 mmで有意差が認められた(p < 0.01)。また、pHは沿岸部で8.8 ± 0.15で山間部は6.6 ± 0.16で有意差が認められた(p < 0.01)。ECは沿岸部で50.02 ± 5.44 μS/cmで山間部は16.34 ± 5.20 μS/cmで有意差が認められた(p < 0.01)。沿岸部は塩分のほかにも、強光、高温、風衝など、一般的な植物の生育には不向きな環境である。海岸個体は、葉緑素量を高めて強光によるエネルギーの急変を制御したり、葉を厚くして乾燥や砂によるダメージから身を守れるようにしたりすることで、環境への適応形態を獲得したと考えられた。本研究によって、ハナハタザオは沿岸部と山間部で葉の形態が異なり、沿岸部の個体群は耐塩性を示す形態を獲得した可能性が示唆された。


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