| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-228 (Poster presentation)
鈎取山モミ希少個体群保護林(宮城県仙台市)は1921年に国有林の森林生態系の保護を目的として設定された.発表者らは,この保護林内に歩道を含む形で設置されたプロット(150m×20m)において,1961年から約60年間にわたり森林動態の長期継続調査を行ってきた.2021年冬に実施された歩道周辺の支障木の伐採により,プロット内でも一部に人為的な林冠ギャップが形成され,林床も攪乱された.今後,調査プロットの林床植生や林分構造の変化が考えられたため,伐採の影響を大きく受けた区画で植生調査を行った.本研究では特に,環境変化への応答が早いと考えられる林床植生について,2022年に現地調査を行い,2014年に同じ調査方法で得られたデータ(未発表)と比較した.
2022年の調査の結果,低木層の植被率とリター被覆率は低下し,草本層の植被率と種数が増加した.生活型別では,落葉広葉樹が大幅に増加し,つる植物と夏緑性草本も増加した.2022年はイイギリやヤマウルシなどの先駆性の落葉広葉樹やトウネズミモチ,ダンドボロギクなどの帰化植物の出現が特徴的だった.オオバジャノヒゲやミヤマタムラソウは両年代に高い常在度で出現したが,植被率は低下した.これらの変化は,先駆的な種の実生が多く出現していることから,2014年からの植生の変化だけでなく,伐採の影響をより大きく受けていると考えられた.種ごとの発芽特性や散布特性の違い等もあり,今後構造や組成にさらなる変化が予想される.また,実生の個体数には年変動があることからも,今回調査した区画の継続調査を進めると共に,伐採の影響を受けなかった範囲でも調査をしていきたい.
保護林内での調査許可申請は適切に行ってきたものの,事前連絡のないまま長期継続調査の対象木が伐採されたことは,行政と研究者との連携不足が原因であるとも考えられる.当事者間での密なコミュニケーションと,相互努力が課題として挙げられる.