| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-236 (Poster presentation)
キク科メタカラコウ属ヤマタバコは、日本固有の多回繁殖型多年生草本である。分布は長野、ほか数県から報告され、国および各県の絶滅危惧IA類に指定されている。長野県の唯一の生育地である軽井沢においても1970年代までは、多くの自生個体群が現存していた。本種が減少した要因はリゾート開発や里山環境の利用変化と植生遷移があげられる。しかし、近年ゴルフ場や別荘地に現存する個体群が確認された。本研究では、自生個体群の生育環境、生育動態を比較検討し、個体群維持に必要な生育環境を明らかにすることを目的とした。調査区は、自生個体群3区画を設置し、調査は2021年4月から2022年9月まで行なった。2021年11・12月には2区画で間伐による植生管理を実施し、残りの1区画は未管理とした。その結果、植生管理区の葉面積指数が管理前と比較して低くなり、明るい光環境に改善された。生育動態では、植生管理区が未管理区と比較して有意に根出葉の生育期間が長く、頭花数が多く、花序長が長かった。また全区画の葉面積指数と花序長には負の相関が認められた。結実種子は植生管理前の全ての区画で観察されなかったが、植生管理を行った区画では結実種子が観察された。これらのことからヤマタバコの生長・繁殖には、光環境条件が強く影響していると考えられる。また開花期の花序の袋掛け実験の結果、袋掛け処理を行った花序は無処理の花序よりも有意に結実種子数が少なかった。このことからヤマタバコの受粉には送粉昆虫による送粉が必要であると考えられる。以上のことよりヤマタバコの個体群維持には、正常な生育・開花・結実ができる生育環境を維持していく必要がある。そのためには生育地の継続的な植生管理が重要である。営みによる植生管理が減少していく現状の中で雑木林や半自然草原などの二次的な自然環境の管理をどのように維持していくかが、これらの自然環境の生物多様性を保全するにあたって重要な課題である。