| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-237 (Poster presentation)
蛇紋岩土壌とは,蛇紋岩などの超塩基性岩の風化に伴い生成する土壌である。この土壌では,過剰に吸収すると植物の生育を抑制するMgやNiなどの含有量が高いため,一般的な植物の侵入が妨げられることから,蛇紋岩土壌における植物の分布や植物相は極めて特異になりやすいことが知られている。広島県庄原市に所在する猫山(1,195 m)は,広島県内では珍しく,地表部の多くが蛇紋岩である。山頂の尾根周辺は,ミズナラ林やカシワ林,低木,岩場が点在する草地となっており,ネコヤマヒゴタイSaussurea modesta やイブキジャコウソウThymus quinquecostatus var. ibukiensisなどの蛇紋岩土壌に特徴的なレッドデータブック掲載種が生育している。そのため,学術的に重要な場所として植生調査や登山記録など,多くの報告が行われてきた。しかしながら,近年は当該地域の植物相に関する文献や報告が少なく,現状が分かっていない。そこで発表者らは,2021年から2022年にかけて,現地における植物相の調査を行うとともに,植物相の状態や確認された植物種について,過去の文献記録との比較を行った。その結果,猫山山頂周辺において,レッドデータブック掲載種をはじめ,過去の文献に記載のある種の大部分の存在を再度確認することができた。その一方で,今回存在を確認できなかった植物種があったほか、人為的に植栽された可能性のある個体も確認した。猫山山頂周辺には,広島県内でも貴重な植物種が生育しているが,それらの生育地は草地や岩場などに極めて限定されており,遷移の進行に伴う草地面積の減少や,気候変動(温暖化,積雪量減少),人為的攪乱などの影響を考慮すると,長期的な保全対策が必要と考えられる。