| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-238 (Poster presentation)
東北地方太平洋沖地震の津波後,各地の津波浸水域で水生・湿生の希少種が多数記録された.しかし,復旧・復興の進展とともにその多くが消失し,事後的な保全の難しさが明らかになった.災害発生前の対策として「復興事前準備」や「事前復興」が検討されており,これらに生物多様性の保全計画を組み込むことで上記の状況が改善できるかもしれない.本研究では,津波の発生に先んじた希少種の出現予測を目的に,津波後に出現した水生・湿生希少種の分布と現在および過去の土地利用との関係を検討した.
宮城県および福島県(南相馬市以北)の津波浸水域から記録されたレッドリスト掲載の水生・湿生植物18分類群について,文献および標本調査により分布データを整備した.土地利用状況は,約100年前(1907~1913年)の旧版地図を元に過去の細分メッシュデータを整備し,津波直前には2009年版土地利用細分メッシュを用いた.希少種の出現地点252地点と津波浸水域内にランダムに設置した対照点1710地点それぞれで,半径100 mのバッファ内に含まれる土地利用形式を集計した.
水生・湿生植物の出現地点と対照点では,出現地点の方がより海岸側に偏っていた(それぞれ中央値で470.0 mと1271.7 m).洗掘による埋土種子の掘り起こしや湛水によるハビタットの形成が影響した可能性が考えられる.希少種の出現地点における100 m圏内の土地利用は,津波直前では森林(出現地点60.9%:対照点29.1%,以下同),畑地(36.8%:22.5%),水田(73.1%:60.2%)を含む地点が多かった.砂丘間低地や小規模なリアス地形での記録が多かったため,隣接する海岸林や畑地が反映されたと推定される.過去の土地利用では,森林(49.0%:28.4%),荒地(24.1%:10.1%)および河川・湖沼(27.7%:14.6%)が多かった.河川・湖沼が多いのは,津波後に冠水した干拓地での出現例が多かったためと考えられる.以上の条件を満たす場所は,事前復興的な保全の対象地として検討の価値がある.