| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-246 (Poster presentation)
日本在来であるニホンミツバチは生態系サービスの持続的な利用において極めて重要な花粉媒介昆虫である.近年,ウイルスやダニ類などの病原体を主要因とした同種の個体数の減少が報告されている.これまで国内におけるミツバチ病原体の検出報告はいくつかあるものの,その発生に関わる環境要因についての知見は極めて乏しい.本研究では,1)国内ニホンミツバチにおける病原ウイルス・微胞子虫・ダニ類の分布状況を明らかにしたうえで,2)各種病原体の発生に寄与する環境要因を推定することを目的とした.
全国のニホンミツバチ飼養者の協力を得て,2021年に新規営巣した計186の飼養コロニーから,それぞれ30匹のニホンミツバチ成虫を採取した.定量的逆転写PCR法および定量PCR法を用いて,ニホンミツバチの病原ウイルス10種(Acute bee paralysis virus,Black queen cell virus,Chronic bee paralysis virus,Deformed wing virus,Sacbrood virus,Varroa destructor virus 1,Apis mellifera filamentous virus,Israeli Acute Paralysis Virus,Lake sinai virus,Kashmir Bee Virus),微胞子虫3種(Nosema apis, N. ceranae, N. bombi)およびダニ類(Acarapis woodi)の検出を試みた.また,各種病原体発生の有無とコロニーの設置箇所の気候(年平均気温,年最低気温,年最高気温,年降水量等)および土地利用(水田,森林,建物用地等)データとを参照し,種分布モデルを用いて各種病原体発生と環境要因との関連性を推定した.
ミツバチコロニーが多く設置されていた場所は,森林などの自然が残る都市近郊であった.この結果を踏まえ,各種病原体の発生に寄与する環境要因を解析すると,多くの病原体では都市部との関連が示唆され,一部は最高・最低気温に影響を受ける可能性が支持された.本研究の成果は,ニホンミツバチの保全を達成するための環境整備に重要な知見をもたらすと期待される.