| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-247  (Poster presentation)

水生昆虫の枯死葉摂食によるセシウム137の取り込み及び排出過程の解明【B】【E】
Ingestion and egestion processes of cesium 137 by an aquatic insect (Lepidostomatidae) feeding on dead leaves【B】【E】

*金指努, 和田敏裕(福島大学)
*Tsutomu KANASASHI, Toshihiro WADA(Fukushima University)

福島第一原子力発電所事故により、福島県の一部の渓流生態系では、未だ放射性セシウム汚染が深刻であり、この汚染の実態解明は、事故から10年以上経過した現在でも重要な課題である。森林を流れる渓流の生態系では、枯死葉を一次生産とする食物網が発達していて、渓畔林から渓流へと落下する枯死葉は、枯死葉を直接摂食する水生昆虫にとって重要な養分源である。すなわち、陸域の渓畔林の放射性セシウム汚染が渓流生態系の放射性セシウム汚染に影響を与えていると予想されるが、この放射性セシウム移行プロセスは明らかにされていない。上記のことから、本研究では、渓流に堆積した枯死葉から、枯死葉を主に摂食するカクツツトビケラ科(Lepidostomatidae)水生昆虫の幼虫(以下、幼虫)への放射性セシウム移行プロセスを、飼育による摂餌実験で明らかにした。2022年に、セシウム137濃度が検出下限値(50 Bq/kg)未満の幼虫を採取し、同採取地の渓流水を12℃に保った環境で飼育した。そして、セシウム137濃度が高いホオノキ(Magnolia obovata)の枯死葉片を、溶存態セシウムを溶脱させた後に与え、時間経過に伴う幼虫のセシウム137濃度変化を調査・解析した。セシウム137の検出に十分な重量の幼虫を確保するためには、測定1回につき20~50個体が必要だが、共食いによる幼虫の個体数減少が認められたので、小型容器に幼虫1匹と葉片1枚を入れて実験を行った。幼虫のセシウム137(乾重ベース)は、調査開始から4時間経過後には検出され、その後、濃度の上昇が確認された。しかし、調査終了の36時間までの間、幼虫のセシウム137濃度が枯死葉を超えることは無かった。また、本研究では幼虫の排泄物に含まれるセシウム137濃度測定にも成功した。排泄物のセシウム137濃度は幼虫よりも高くなり、さらに時間経過とともに枯死葉よりも濃度が高くなることが明らかになった。


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