| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-251 (Poster presentation)
近年森林スポーツの愛好者が増加し、新たな森林利用形態としてその魅力や地域への経済効果が注目されている。一方で環境に影響を与え得ることがしばしば指摘されているが、詳細に研究された例は少なく、特に外来植物の拡散については知見がほとんどない。そこで本研究では持続的な森林スポーツの実施方法を検討するため、外来植物の種子分散リスクについて評価した。
調査はオリエンテーリング大会(OL)およびトレイルランニング大会(TR)を対象とした。まず、参加者が通過する地点に1大会あたり8~9の調査区を設け、出現種と被度を記録し、大会前後および1年後で比較した。その結果、林床を直接走行するOLでは出現種数は大会直後に減少し、1年後には顕著に増加した。NMDSによる種組成の解析では、大会前と後とでは変化がみられるものの、1年後には開催前の種組成に戻る傾向がみられた。しかし、オオバコやコナスビ、ヒメジョオンなど人里に生育する種の出現数は開催前に比べて増加していた。
続いて、OLとTRの1大会ずつを対象に、大会参加者のシューズに付着した土壌を採取し、発芽試験を行った。その結果、OLでは平均0.5個/人、TRでは平均2.2個/人の種子が発芽した。さらに被験者にアンケートを実施したところ、種子の付着によって外来種が拡散することを知っている人は76%、種子分散を防止する措置への協力意志がある人は98%と多かった。一方で前回の使用からシューズのクリーニングを実施した人は36%と少なく、実施した人の中でも「環境保全のため」と回答した人は17%にとどまった。
以上より、森林スポーツ大会の参加者が開催地に外来種子を分散するリスクは日常的に発生していると考えられ、大会後は持ち込まれた種子が発芽し定着している可能性も示された。分散リスクを軽減するためには、種子除去マットや洗い場の設置などの対策を行うとともに、参加者の知識と協力意志を行動に結びつけるための啓発活動も重要である。