| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-253 (Poster presentation)
コウノトリCiconia boycianaは、1971年に国内最後の野生個体が一度捕獲され、その後死亡し一度は絶滅したが、生息域外保全を経て、2005年から兵庫県豊岡市を中心に再導入が開始された。以降個体数は増加し、17年以上が経過した2023年1月時点では、国内において300羽を超える個体が野外に生息している。野生個体の増加が歓迎される一方で、人為的な要因による死傷事故も増加の一途を辿っており、中でも電線衝突は重大な原因と報告されている。これまでの電線衝突事故に遭った個体のうち、その過半数が巣立ち後45日以内の幼鳥であることが、兵庫県立コウノトリの郷公園による個体識別(色足環の装着)で解明されている。巣立ちしたコウノトリの幼鳥は、巣立ち後2ヵ月程度は巣周辺に留まることから、過去に電線衝突事故が発生している巣場所周辺の環境には、まさに幼鳥の電線衝突事故を誘発する要素が存在する可能性が高いと言える。本研究では、コウノトリ幼鳥の行動圏内における、電線衝突事故の衝突リスクそのものの電線(送電線・配電線)の延長や、生息地を分断し飛翔移動の必要性が生じる規模の大きな道路や堤防の延長の影響について、GIS等を用いて測定し、解析を行うことで、コウノトリの巣立ち後間もない幼鳥の電線衝突事故について、事故が発生しやすい環境を明らかにした。
2022年に繁殖が行われたコウノトリの巣場所のうち過去の事故履歴を考慮して4カ所を調査地に選定し、各巣場所の巣立ち幼鳥2個体ずつ、計8個体を調査対象とした。目視調査により取得した出現場所の位置情報データからカーネル法を用いて行動圏を推定し、行動圏内における電線や道路、堤防延長と事故との関係を分析した。各調査地における、過去に発生した事故件数と巣立ち雛累計数より事故率を算出し、調査対象個体の行動圏内で求めたデータとの関係について解析した結果、行動圏内の道路・堤防延長が長ければ事故が多いという傾向が見られた。