| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-265 (Poster presentation)
山本哲史・片山直樹・山迫淳介・伊藤健二・池田浩明・大久保悟・馬場友希(農研機構)
日本の代表的な農業生態系である水田は、農業生産の場としてだけでなく湿地の代替生態系として生物多様性保全の場として活用できるポテンシャルを持つ。環境DNA分析を活用することで、水田の生物多様性保全機能を簡便かつ網羅的に評価できると考えられる。しかし、水田は水深が浅く、場所によって水流の強さも異なるため、環境DNAの拡散が限定的である可能性があり、1つの水田圃場の生物多様性を明らかにするために複数のサンプリングが必要かもしれない。本研究では、栃木県上三川町において同一水路を共有する有機および慣行水田において、圃場ごとに水の流入部、流出部周辺を含む8箇所から採水を行い、効率的なサンプリング戦略を検討した。
魚類(MiFish-U)、鳥類(MiBird)、節足動物(fwhF2/EPTDn2r)を対象としたメタバーコーディング解析の結果、いずれも水田や畦を利用する種が検出され、妥当性のある多様性評価が可能であると考えられた。検出種数は8回採水で平均6種(魚類)、6.5種(鳥類)、52種(節足動物)であった。魚類ではおよそ4回、鳥類では7回での採水で検出種数は横ばいとなったが、節足動物では検出種数は横ばいとならなかった。多様性の程度が似ている魚類と鳥類でも異なる結果となったことは、魚類と鳥類では環境DNAの放出量や拡散する範囲が異なる可能性を示唆している。流入部付近の検出種数は比較的多く、水路由来のDNAを検出している可能性も示唆される。一方で、水田圃場での検出種も妥当性が高く、水路の影響の大きさを考慮するためにはさらなる研究が必要である。8回の採水を少量ずつ混合したサンプルの検出種数は、2〜3回分の採水サンプルと同等であり、採水地点ごとの採水量が小さいために検出種数が少なかった可能性がある。