| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-268 (Poster presentation)
国内の森林の多くでシカの食害による森林生態系の改変が進んでいる。シカの個体数増加はシカの食害による下層植生消失を招き、下層植物がほとんどなくなってしまった林分か、シカが摂食しない植物(不嗜好性植物)が森林下層で優占する林分が見られる。アセビ(Pieris japonica; ツツジ科)は常緑性の低木で、器官中に中毒性のある物質を含むためシカが摂食せず、個体群が拡大している。本研究では増加するアセビが生態系にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにするため、アセビが繁茂している箇所と、していない箇所で周辺環境や土壌微生物相を比較した。調査は2022年4月に九州大学宮崎演習林(宮崎県椎葉村)でアセビが繁茂している地点を2エリア合計7箇所選定し、その周辺で同様の上層木(針葉樹、落葉広葉樹)、地形、斜度でアセビが繁茂していない箇所を同数選定した。1箇所につき2〜3個、合計36個のコドラートを設置し、光環境、土壌環境(リター・腐植量、土壌硬度、養分量など)、土壌微生物相(細菌相、真菌相)の調査を実施した。アセビが繁茂している箇所では、開空度が低く、その傾向は落葉広葉樹林において顕著に見られた。アセビが繁茂することで林床の光環境が暗くなり、冬季に葉っぱが落ちる落葉樹林においてより暗くなることがわかった。土壌環境のうち腐植層の量が、アセビが繁茂していると最大5倍になることがわかった。土壌微生物相を解析すると、真菌類でアセビ繁茂の影響が見られ、細菌類は上層木の効果が顕著に見られた。アセビはツツジ科菌根菌(エリコイド)と共生関係にあるため、アセビが繁茂することが土壌微生物相とそれらの機能を変化させている可能性が考えられる。発表では上記の結果と現在進めている解析結果、今後の展望などを議論する。