| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-270 (Poster presentation)
水域と陸域の接続部分(水際)には,緩やかな環境の勾配が存在し,植物やこれらを資源とする生物群集の多様度が高まるとされる.里山棚田景観では,変形田(水域)と畦畔(陸域)が複雑な景観モザイクを形成するころから,単位面積に占める水際の割合が平場の水田と比較して大きく,これが里山の高い生物多様性の維持に貢献している可能性がある.本研究では,水際の形状および面積(圃場の周囲長)の違いが水田内の微少環境および水生昆虫群集に与える影響を検証した.
新潟県佐渡市小田地域に10m四方の水田ビオトープ(100m2)を4つ造成し,水田内に長さや形状の異なる内畔を設置することで水際の形状と圃場の周囲長を変更した.4つの実験区は,内畔が存在しないコントロール区(周囲長40m:CP40),水際の形状をひだ状に変更した実験区を2つ(周囲長80m:TP80,周囲長120m:TP120),直線状の水際を維持した状態で周囲長を80mに変更した実験区(PP80)に区分した.調査は,実験区の設置から約1ヶ月経過後の8月に行った.水生昆虫群集は,各実験区内の水際6地点と中央6地点の計12地点において,たも網を5回振り採集した.各地点の微少環境要因として,水深,リター量,DO,EC,水温,pH,ORPを計測した.
本研究では,14の分類群,計6779個体の水生昆虫を採集した.TP120の中央では,Dytiscidae,Haliplidae,Hydrophilidaeなどの水生甲虫類,Aeshnidae,Coenagrionidae,Platycnemididaeなどのトンボ類の個体数密度がCP40の中央と比較して顕著に高く,水際面積(圃場の周囲長)の増加は水生昆虫群集の個体数密度に正の影響を与えることが示唆された.また,LibellulidaeとCulicidaeは圃場内の水際付近に分布が集中する傾向がみられた.一方で,各実験区の水際に生息する水生昆虫群集の個体数密度に顕著な差はみられず,水際の形状(ひだ状と直線状)の違いによる個体数密度の違いは確認されなかった.