| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-276  (Poster presentation)

バーチャルネット:防鳥網の代替となる鳥害対策技術の確立に向けて【E】
Virtual net: an alternative bird net for reducing bird damage【E】

*益子美由希(農研機構), 徳永幸彦(筑波大学), 岡本遼太郎(筑波大学, 国環研), 小熊宏之(国環研), 山口恭弘(農研機構)
*Miyuki MASHIKO(NARO), Yukihiko TOQUENAGA(Univ. of Tsukuba), Ryotaro OKAMOTO(Univ. of Tsukuba, NIES), Hiroyuki OGUMA(NIES), Yasuhiro YAMAGUCHI(NARO)

 農作物への鳥害対策の基本は、防鳥網を用いて鳥と農作物を物理的に遮断することだが、広い農地を隙間なく網で覆うことは容易ではなく、強風や雪に弱いなどの課題がある。全国一のレンコン産地である霞ケ浦周辺のハス田地帯では、カモ類等によるレンコン食害への対策として多くのハス田に防鳥網が設置されているが、年間約3億円の被害が生じており、防鳥網に野鳥が絡まる羅網死も相次いでいる。そこで、防鳥網に代わる効果的な対策手法を検討するため「バーチャルネット」(以下VN)を開発した。
 VNは、冬の収穫期に泥中のレンコンを夜間に食べる加害種(主にマガモとオオバン)に対象を絞った追払い装置である(特願2022-127353)。音声認識システムを用いた鳥の鳴き声検出部とレーザー照射部から成り、加害種の鳴き声を自動検知した際のみ、対象のハス田へ光を一時照射する。これにより、鳥が光刺激に慣れることを防ぐとともに、ハス田を利用する他の鳥への影響を避ける狙いである。
 生産者らの協力のもと、収穫前のハス田を試験圃場として2022年2月から3月に行った現地試験では、光照射時にカモ等が飛び立つ様子が確認され、VNの稼働期間中は加害種の飛来個体数が減少した。その後、より廉価な部品への変更やソフトウェアの改良をしながら、2022年10月から2023年3月にかけて冬のレンコン収穫期を通しての現地試験を行っている。結果は解析中だが、試験圃場では隣接する非試験圃場と比べてレンコン収穫時の被害量が少ないなど、一定の効果が伺えた一方で、VNが風や車の音に反応するなど誤照射も多く、照射頻度が高くなって鳥が光刺激に慣れたためか、加害種に光が当たっても飛び立たない場合もみられた。
 今後、課題を検証してVNの改良を進め、鳥類の生息環境を可能な限り損なわずに農業被害を軽減できる対策技術の確立を目指す。


日本生態学会