| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-278 (Poster presentation)
人獣共通感染症でマダニが媒介する感染症の一つとして、リケッチア症があげられる。日本紅斑熱(病原体:Rickettsia japonica)はリケッチア症に含まれ、全国で患者数が近年増加の傾向があり問題になっている。このような人獣共通感染症の予防のためには、野外でのマダニの病原体の保有率、マダニが選好する環境、マダニが寄生する野生動物の情報などの、生態学的な背景を理解することが重要である。鹿児島県における日本紅斑熱の患者数は、昔から大隅半島に集中している。そこで本研究では、大隅半島の垂水市において、マダニの採集からマダニの種ごとの季節消長、生息環境、リケッチア保有率を明らかにした。さらに、赤外線センサーカメラを用いて、各調査地でマダニの宿主となりうる動物を推定した。調査は2022年2月から2023年1月の期間に行った。景観の異なる3つの調査地(演習林、神社、公園)の林内と開放地で毎月1回、フランネル法によるマダニの採集を行った。採集したマダニについて、実体顕微鏡で成長段階の分類と種同定を行った後、抽出したDNAからPCR法でgltA遺伝子を標的とするプライマーを用いてRickettsia spp.の保有状況を調べた。赤外線センサーカメラは3つの調査地の林内に各2台設置した。その結果、6種2946個体のマダニが採集され、全体的にキチマダニが優占しており、種や成長段階によって採集数の多い季節や環境が異なった。リケッチアを保有していた種はキチマダニ、ヤマアラシチマダニなどの4種で、季節的に異なる傾向がみられた。また、リケッチア保有個体のうち、少数からは病原性のあるR. japonica、R. tamuraeと相同性の高いgltA遺伝子配列が検出された。赤外線センサーカメラでは、アナグマやイエネコなどの哺乳類7種とキジバトやヤマドリなどの鳥類8種 が撮影され、調査地によって種構成に違いがみられた。これらの結果から、リケッチア感染リスクに影響する環境要因や生態系管理について考察する。