| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-283 (Poster presentation)
氾濫原や後背湿地が各地で激減した現在、淡水域の水生生物の減少傾向は著しい。全国に20万余り存在する農業用ため池は多面的な機能をもち、水生生物のレフュージアとしてきわめて重要な役割を果たしている。しかし、2019年以降、全国で6万以上の池が防災重点農業用ため池に選定され、2030年を期限とする特別措置法に基づいて各地で防災工事等が推進されている。
本研究では、防災工事によるため池の水位の低下が、水生生物に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。2019~2022年に石川県内で防災工事が実施された19の池で工事前後の生物相を調査した結果、工事前後の水生昆虫の種数は、完全に水位を下げて水がほぼ無い池では15~30%に減少し、シオカラトンボやコミズムシ類など、水田とほぼ同様の生物相であった。一方、50㎝~1mほどの水深が残された池では、水生昆虫の種数は37.5~88.9%に減少したが、堤体付近に残存する水域で中型ゲンゴロウ類などの絶滅危惧種も確認された。それに加え、浅い部分は湿地となり湿生植物が繁茂し、ミミカキグサ群落が確認された池もあった。また、堤体付近から隔離されて残存する浅い水域のうち、アメリカザリガニなどの侵略的外来種が進入しにくい場所では、シャジクモなどの水生植物が確認された。水位低下に対する反応は種によって異なり、絶滅危惧Ⅰ類の種のうち、シャープゲンゴロウモドキは残存する池もあったが、ため池に依存するマルコガタノゲンゴロウ、マダラナニワトンボは確認されなくなった。
以上より、今後の農業用ため池の防災工事では、出来るだけ水深を保ち、水位の調節が可能な池として残すことが重要である。とくに、ため池に依存する絶滅危惧種の生息地では、出来るだけ高い水位を維持し、岸辺の水草帯などの変化の影響を少なくすることが必要である。また、水生植物が再生した池の浅い部分の湿地では、定期的な攪乱などの維持管理による遷移の防止がのぞまれる。