| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S05-1  (Presentation in Symposium)

発熱植物としてのザゼンソウ研究~分子から生態まで~【B】
Towards understanding the mechanism and role of floral thermogenesis in skunk cabbages (Symplocarpus spp.)【B】

*稲葉靖子(宮崎大・農), 佐藤光彦(かずさDNA研究所), 高野(竹中)宏平(長野県環境保全研究所)
*Yasuko ITO-INABA(Univ. Miyazaki), Mitsuhiko P SATO(Kazusa DNA Research Institute), Kohei Takenaka TAKANO(Nagano Environ Cons Res Inst)

 現在、論文報告されている発熱植物の数は約90種にのぼり、この中で、サトイモ科植物は36種含まれる。花の発熱には、送粉者の誘引、送粉昆虫への報酬、生殖器における低温ストレス回避など、生殖機構に絡む主要な役割があるとされる。サトイモ科は、発熱能力の高い植物を多く含み、古くから、発熱植物研究の主役であった。ザゼンソウ(Symplocarpus)属は、同属内に発熱性の異なる植物種を明確に含むため、発熱形質の獲得或いは喪失のプロセスを理解する上でも大変興味深い。中でもザゼンソウ(S. renifolius)は、他のサトイモ科発熱植物にはない発熱の強さと持続性を併せ持ち、氷点下を含む寒冷環境下でも、1-2週間に渡り花序の温度を23℃前後に維持できる。そのため、発熱植物研究では、重要な植物種として認識されている。
 ザゼンソウの花は、雌雄異熟型の両性花であり、雌期では安定的に発熱するが、雄期に移行すると発熱を終止する。この性質に着目して、雌期と雄期の花を植物生理学の手法で比較した結果、雌期の花序では発熱工場とされるミトコンドリアが豊富に含まれており、呼吸やミトコンドリア機能に関わる遺伝子の発現が高いこと、発熱を終えた雄期の花序では、これらの遺伝子に代わりストレス応答や液胞代謝に関わる遺伝子の発現が上昇することを明らかとした。加えて、本植物では’雌期’と呼ばれる時期に、雄蕊の発達が活発であることもわかった。また最近、我々の研究グループは、生物系統地理学の手法を用いて、発熱性の強いザゼンソウと発熱性が微弱なヒメザゼンソウ(S. nipponicus)の比較により、ザゼンソウの発熱は、寒冷適応に有利に働いた可能性を示唆する結果を得た。本講演では、ザゼンソウの発熱に関して、植物生理・生化学的に明らかとされた内容を中心に、最近の生物地理学研究で得られた知見も交えて紹介したい。


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