| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
自由集会 W06-1 (Workshop)
市民科学という言葉が社会に広がり始めたのはここ10年あまりの話であるが,国内の博物館では,1980年代初頭には市民参加型調査の生き物分布調査が始まっていた.多くの市民やアマチュア研究者などが集まる場である博物館が主導となって,目的の生物などを広く調べていくプロセスは,全国の博物館がその手法をそれぞれ発展させ,「博物館で集める」情報として今日の市民科学の礎を築いていったと考えられる.
一方で,博物館では地域で開催される自然観察会や博物館へ寄せられた質問において,思わぬ生物の発見や自然史に関する情報,生態学的知見が得られることがある.このような「意図していない情報」が集まるのも博物館の特徴であり,それに科学的な価値づけを行うことで,市民参加型調査と同等の情報が集まる場としての機能も付加されるのではないだろうか.
自然観察会では,これまでに滋賀県内で未確認だったナガレホトケドジョウや平野部の水路で未確認であった国外外来種コクチバスが観察会中に発見されるなど,大人数で実施するからこそ,これまでの調査では確認されなかった種が発見される事例が増加している.また,博物館への質問では,利用者が自分で採集した生物の同定や詳しい解説を尋ねる中で,県内未記録であった外来種の発見や約30年ぶりの記録となったコガタノゲンゴロウの再発見に繋がる事例が見られた.これらは,ほとんどが定性的な情報であることも特徴である.県外の自然史系博物館においても,特に利用者から持ち込まれた写真や資料がきっかけとなり,県内初記録,確認記録が少ない種が報告された事例が確認された.
観察会の参加者や博物館への質問者は,もともとそれを狙って採集をした訳ではない.まさに同床異夢的な現象ではあるが,博物館(学芸員)がそのような情報に価値づけできる仕組みや眼差しを準備しておくことが,新たな博物館の行う市民科学の展開へと繋がるだろう.