| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
自由集会 W10-1 (Workshop)
セトウチサンショウウオは,環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されている.本種の生存に必要な里地里山の森林-水辺エコトーンには多様な生物が生息しており,本種の生息地を保全することは,里地里山の生物多様性を維持するうえで大きな意味を持つ.セトウチサンショウウオの繁殖に必要な環境を広域,集水域,局所のスケールから空間階層的に明らかにし,里地里山のエコトーンの保全策の立案に必要となる視点について検討し提案することを目的として,本研究を行った.
まず,徳島県域におけるセトウチサンショウウオの産卵場に影響を与える環境要因を明らかにし,潜在的な産卵適地を抽出した.結果,産卵場は谷地形で森林と水田が近接するエッジを多く含むことが重要であると推定された.この結果を現地調査により検証したところ,森林内でも多くの産卵が確認され,結果と一致しなかった.森林内の産卵場となった水辺はかつて水田として利用されていた痕跡が認められため,森林と水田の景観変化が産卵場に及ぼす影響について着目し解析を進めた.
徳島県阿南市の16集水域において1960年代と2014年の航空写真から土地利用図を作成し比較した.結果,谷の奥地に維持されていた水田は植林によって森林へと変化しており,景観構造が単純化したことが示された.
最後に,景観構造の変化が産卵場としての水辺に与える影響を現地調査に基づき確認した.結果,過去にエッジを形成していた水田が林地へと転換された現在も産卵場として利用されていることが明らかになった.
以上より,セトウチサンショウウオの繁殖にとっては里地里山エコトーンのエッジが特に重要であること,このエッジの形成・維持には人の活動が大きく影響していることが示された.本種のようなエコトーンを生息の場とする生物の保全には,過去の土地利用を加味した分析が必要であり,生態的レガシーを活用した保全策を提案していくことが重要である.