| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


自由集会 W10-3  (Workshop)

球磨川流域における迫田と湿田:生物相の現状と保全
Wetland fields in valleys within the Kuma River basin: current status and conservation of biota

*一柳英隆(熊本県立大学)
*Hidetaka ICHIYANAGI(Pref. Univ. of Kumamoto)

熊本県南部にある球磨盆地は、面積の多くが水田として利用されている。これらの水田の大部分は圃場整備され、現時点での生物多様性はあまり高くない。たとえば、デンジソウやタガメは、それぞれ2つの圃場整備されていない迫(山に挟まれた谷間のこの地方の方言)で確認できるのみである。とくに下流側が閉塞した、「閉じた迫」にかつて水田に生息した絶滅危惧種の生息が確認されることが多い。これらは、台地が削られてできた迫で、泥が深く、湧水があって常に湿っているのが特徴である。迫は、かつては水田として利用されてきたものの、1枚あたりが小規模かつ乾燥できないことによる農業機械使用の難しさ、日当たりがよくないこと、獣害の多さなどのために早い時期に放棄されたところが多い。放棄が継続すると湿田であっても徐々に陸化し、湿地性絶滅危惧種の生息が難しくなる。球磨盆地では、地元の有志が中心となりながら、企業、地方公共団体・地域、高校、大学等が関わりつつ湿地性生物の生息環境を復元しつつある。これらの生息環境の整備は、迫内や周辺斜面の植生の管理、畔や水回し工夫による水の貯留が中心である。場合によっては復田される。また、台地上における水の地面への浸透もその下流の迫での湧水量に影響すると考えられるために重要である。熊本県南部は、2020年7月に豪雨を受け、流域治水として各所で雨水の浸透や貯留することが進められつつある。保全作業が進められつつある迫の集水域においても、流域治水とあわせて台地上の駐車場側溝の浸透化や建物排水の雨庭への導入が計画されている。


日本生態学会