| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
自由集会 W10-4 (Workshop)
湧水湿地は季節を通して水温や水質が安定しているという特徴を持ち、固有性の高い生物相が形成される。湧水湿地の環境を好んで生息する種(湧水選好種)のためには、安定した湿地環境を維持する必要がある。一方で、湧水湿地は個々の面積が小規模でパッチ状に成立することから、湧水選好種はメタ個体群を形成している可能性が高い。また、湧水という共通のハビタットを利用する種でも、種の移動能力によって、メタ個体群の範囲や湧水湿地間の個体の移動を規定している要因が異なる可能性がある。
千葉県北部には、湧水湿地が成立する多数の「谷津」が存在する。しかし、圃場整備や河川改修による水系の連続性の喪失、宅地開発による土地利用の変化によって、谷津を取り巻く環境は人為的な影響を強く受けていると考えられる。そのためこのような地域では、種が持つ本来の遺伝構造を把握し、より詳細なスケールにおいて生息地間の連結性を高める空間計画が必要である。本研究では、谷津の湧水湿地を利用し、移動特性の異なる3種(ホトケドジョウ:遊泳性、サワガニ:歩行性、オニヤンマ:飛翔性)を対象に、移動特性と遺伝構造の関係を明らかにした。
MIG-seq法(Suyama and Matsuki 2015)によって一塩基多型(SNP)情報を取得し、各種の遺伝構造を明らかにした。その結果、ホトケドジョウでは3つの流域から4つの遺伝的グループが検出され、水系単位で固有の遺伝的グループを形成していた。サワガニでは4つの流域から2つの遺伝的グループが検出され、水系単位にとらわれないメタ個体群を形成していた。オニヤンマでは4つの流域間でも遺伝的グループが検出されず、広範囲で遺伝的に類似していた。以上のように、同じ湧水選好種であっても移動特性によって遺伝構造が異なっていた。従って、連結性の空間計画を立てる際には、移動特性を考慮することが重要である。