| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
自由集会 W12-2 (Workshop)
動物から微生物まで分類群を問わず、生物群集が関わる現象は極めて普遍的であり、その応用可能性は計り知れない。その上で、ある群集の種構成や各種のアバンダンスを予測、制御する事は、群集生態学のゴールの1つだと考えられる。ここで、予測、制御を可能にする大前提として、そもそも群集組成に再現性があるかどうかを考えなければならない。この場合の再現性とは、組成がほとんど同じ複数の群集が同一条件で時間発展した場合に、それらがある程度同じと見なせる群集へと遷移する事を指す。
しかしながら、群集組成という変数についてのみ初期値が同一であろうとも、浮動や移出入など、群集組成に無関係であるランダムなプロセスが働くことで、着目する複数の群集はいくつかの異なった状態に遷移するかもしれない。どの程度の再現性を持つか、あるいはどの程度の代替状態が現れるかは、群集組成や各種の性質に依存した決定論的な過程と、それらに依存しない確率論的な過程のせめぎ合いから現れる結果であり、これはシステムに依存する可能性がある。
これらの考えは概念的に、群集集合プロセスにおける代替安定状態の創発と捉えることが出来る。実際に代替安定状態が創発されるかどうかは、近年急速に発達しているDNAメタバーコーディングなどの技術を用いて、初期条件を同一にした大量反復実験における各群集の組成変化を観察する事によって検証可能である。今回は、上記の理論的な検討がどこまで有意義なものであるかを大量反復実験によって実証した結果を議論する過程で、生物群集の代替安定性が持つ本質を浮き彫りにしたい。