| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


第11回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 11th Suzuki Award

木本性つる植物におけるクローン成長の生活史戦略
Life history strategies of clonal proliferation in lianas

森 英樹(森林総合研究所 樹木分子遺伝研究領域)
Hideki Mori(Forestry and Forest Products Research Institute, Department of Forest Molecular Genetics and Biotechnology)

木本のつる性植物(以下、ツル植物)は、樹木に取り付き明るい樹冠部にむかってよじ登るという性質をもつため、樹木の成長阻害などを引き起こし、結果的に森林動態にまで影響を及ぼすことが指摘されている。しかし、樹木と異なり、森林の構造や動態におけるツル植物を対象とした包括的な研究は非常に少ない。その理由の1つは、ツル植物の位置の記録の難しさにある。樹木は力学的制約からその根元の上部には枝や葉がおおよそ分布するが、ツル植物の場合は根元の上に枝や葉があるとは限らない。なぜなら、ツル植物は上方(垂直)成長だけでなく、様々な森林階層で水平方向への成長も行うためである。ツル植物は林床において匍匐枝を伸長させ、そこから根を出しつつ多数のラメット(見かけ上の個体)を形成しながら水平成長する。より高い森林階層では、樹木の幹や樹冠間を乗り換えながら水平成長する。森林という巨大立体構造を活用した3次元的なクローン成長と捉えることもできるツル植物の他者に自重を委ねた垂直・水平成長は、一般的なクローナル植物にはない、ツル植物ならではの成長特性である。しかしこれまでツル植物のクローン成長に着目した研究は極めて少なく、林分スケールでの研究は全くなかった。そこで私は当時研究例が非常に少なかった冷温帯林におけるツル植物の群集構造や空間分布特性を明らかにし、その代表的なツル植物種フジを対象に林分スケールで遺伝的構造を網羅的に解明した。これにより、ツル植物のクローン成長は個体の定着や分布拡大だけでなく、微地形における空間分布特性にも影響することを林分スケールで初めて実証した。さらに、ツル植物は種によって水平・垂直方向へのクローン成長を使い分けていることも初めて明らかにした。具体的には、種子から芽生えた後に水平成長して暗い林床で長期間生存(待機)し、その後に垂直成長に切り替える種(水平成長優先型)と、種子から芽生えた後に樹木を登攀し垂直成長を行い、明るい林冠部に到達し大型個体へと成長した後に、林床で匍匐枝による水平成長を行い個体増加する種(垂直成長優先型)に分けられ、種によって異なるクローン成長プロセスや生存戦略があることを初めて明らかにした。ツル植物は、森林という巨大立体構造を活用し、自身も構造を形成し、ダイナミクスも担う。このすべてに関わるクローン成長の生活史戦略に関して議論したい。


日本生態学会