| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-02  (Oral presentation)

奈良のシカの糞性状と腸内細菌叢が、感染症拡大による観光客数変動から受ける影響【S】
Fecal condition and gut microbiota of Nara sika deer affected by tourist number dynamics during a pandemic.【S】

*明石涼(北海道大学), 石川周(奈良の鹿愛護会), 甲斐義明(奈良の鹿愛護会), 中岡慎治(北海道大学), 立澤史郎(北海道大学), 早川卓志(北海道大学)
*Ryo AKASHI(Hokkaido univ.), Shu ISHIKAWA(N.D.P.F), Yoshiaki KAI(N.D.P.F), Shinji NAKAOKA(Hokkaido univ.), shirow TATSUZAWA(Hokkaido univ.), Takashi HAYAKAWA(Hokkaido univ.)

国指定の天然記念物である「奈良のシカ」は、奈良公園および周辺部に生息するニホンジカを指し、人間と深い関わりを持つ野生動物である。奈良のシカを目当てに国内外から多くの観光客が訪れる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は人間社会に大きな影響を与え、奈良公園においても観光客数が大幅に減少した。感染症拡大の影響はヒトを通じて野生動物にも及び、世界各地で様々な報告がなされている。さらに奈良のシカにおいても行動が変化したことが報告された(Uehara et al. 2023)。我々は食物の消化、栄養吸収、健康に関わる腸内環境に着目した。奈良のシカの腸内環境が人間活動の変化の影響を受けたか明らかにするため、COVID-19パンデミック前後で糞性状と腸内細菌叢を調査した。感染拡大前後に奈良のシカの排便を直接確認し糞を採取した。それぞれの糞は個体情報と糞性状を記録した。糞性状は粒状、塊状、下痢状に分類した。結果、感染拡大後奈良のシカの糞性状割合は変化し、粒状便が増え塊状便が減少した。また、観光客数と粒状便の割合には負の相関があった。次に糞性状と腸内細菌叢の関連を調べた。粒状便は塊状・下痢状便に比べα多様性が高い傾向が見られた。β多様性は粒状便と塊状・下痢状便間で有意差があり、塊状・下痢状便間では有意差が認められなかった。さらに、糞性状間で差のあった細菌は、粒状便では牛ルーメンで多く報告されるラクノスピラ科細菌が属・種レベルで多く、塊・下痢状便では偏性嫌気性のバクテロイデス目の細菌が科レベルで多かった。我々は奈良のシカの腸内環境が感染症拡大による人間活動変化の影響を受けていることを明らかにした。シカの糞性状の変化が糞利用昆虫に影響を与えることで、奈良公園の糞分解速度や衛生環境に影響が及ぶと考えられる。腸内細菌叢や糞性状の変化がシカ自身や生態系にどのような影響を与えるか、奈良のシカと密接な関係にあるヒトが考え、調べていく必要がある。


日本生態学会