| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-03 (Oral presentation)
近年、国連をはじめとする国際機関は、地球環境・農業生産・地域社会の持続可能性をめぐるキーワードとしてアグロエコロジー(agroecology)を用いるようになり、このコンセプトが示した「持続可能な食システム」(sustainable food system)という考え方が国際社会に浸透している。2018年に「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」を提示し、小農・先住民の権利と環境を守る「アグロエコロジーと有機栽培を含む、持続可能な生産を活性化」(第16条3)する方針を掲げた国連は、破壊をもたらす工業的農業開発に対抗してきたアグロエコロジー論者の議論を採用することとなった。本研究は、アグロエコロジーが2000年代以降に政策として普及し始めたことに着目し、国際条約の文脈においていかにアグロエコロジーが取り入れられてきたかについて考察する。特に、環境に関わる国際条約の内容に関する歴史的変化を、条約条文・政策文書・決議書に沿い、詳細に分析することを通じて、アグロエコロジーの反映を見ていく。この研究では、1970年代に成立した環境保護条約、すなわち1971年に採択された水鳥とその生息地である湿地を保護するラムサール条約、1972年の自然・文化財を認定保護する世界遺産条約、1973年の野生動植物の国際取引を規制・禁止するワシントン条約の他、1990年代に制定されたリオ3条約-1992年採択の生物多様性条約・1992年国連気候変動枠組条約・1994年国連砂漠化対処条約を例にとって検証する。これらを踏まえ、国際社会における持続可能性という共通認識がアグロエコロジーに到達してきていることを論じる。