| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-05  (Oral presentation)

生態学と社会コミュニケーション──文学、アート、教育とのかかわり【B】【S】
Ecology and social communication: the relationship between literature, art, and education【B】【S】

*多田満(国立環境研究所)
*Mitsuru TADA(Nat. Inst. Environ. Stud.)

本発表では、生態学(の認識)が文化に浸透するための社会コミュニケーションについて述べる。そもそも文化は社会の中で人間(人びと)のコミュニケーション(社会コミュニケーション)によって形成される。生態学(の認識)もその社会コミュニケーションにより文化の一部になると考えられる。そのコミュニケーションの手段が社会の中での人と人との対話(社会対話)である。文化は、人間が人間らしく生きるために極めて重要であり、人間相互の連帯感を生み出し、共に生きる社会の基盤を形成するものである。よって、その連帯感や共生社会を形成する手段も社会対話であるといえる。
 社会対話のツールのひとつ環境ポエトリー(文学)は、生態学など環境科学の論文詩(経験的論理と個人的論理をもとに作成)であり、その作成過程で論文執筆者(共著者)の対話により完成させる。また、読者にはその詩を通して生態学(の認識)と生態学者に対する理解と共感をえること(社会対話)が期待される。さらに環境アートは、人間活動と環境との持続可能な関係を修復・再生・創造する、アーティストと生態学者との対話と協働をプロセスとするアートであり、新たなパースペクティブ(新たな概念づくりや価値観)を提案する。詩と同様に観客にはその作品を通して社会対話が期待される。一方の環境カフェ(教育)は、生態学など環境科学の科学性(科学的知識・論理性)だけでなく、人文学的教養(文学)や環境倫理などの人間性から、科学者(研究者)と市民が対話の過程でともに理解と共感をえる(自分ごとと捉える)、「科学者が市民の仲間になる」ことを目的としている。
 生態学(の認識)は、これらのツールにより対話を通して社会に浸透し文化に組みこまれるようになる。つまりこのような「対話する社会」の中で新たな文化も形成されるものと考えられる。


日本生態学会