| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) C03-02 (Oral presentation)
動的環境における昆虫のナビゲーション能力は、固定化された行動パターンの迅速な出力と、外的刺激に呼応したそれらの適切な制御によって実現されている。従来のナビゲーション研究は限られた種での特異な能力に焦点を当てられることが多く、より基本的な行動を種間で比較するアプローチは相対的に乏しい。本研究では様々な昆虫種の研究でしばしばscototaxisとしても報告されるbeacon-aiming行動、すなわち視覚的に際立った主に暗い物体への自発的な接近行動に着目した。対象とした分類群は、アリ科昆虫である。Central place foragerとして多様な環境に生息するアリは、探索や帰巣におけるナビゲーション能力を種間比較する上で格好の対象である。我々はまず、生態学的・形態学的に性質の異なる6種のアリについて、長方形の黒い物体へのbeacon-aiming行動を比較した。その結果、オオハリアリ、クロヤマアリでは物体への直線的接近が、またアシナガアリ、ヒゲナガアメイロケアリでは迂回してからの接近が観察された。これまでの知見に反して、モリシタクサアリは特定の光環境において、クロオオアリは光環境を問わず接近行動を示さなかった。ところが、さらなる実験によって、アリーナを水で満たして水面にクロオオアリを浮かべると、遊泳による接近行動が生じることが判明した。また、本接近行動は乾燥した基質上でも、直前の遊泳経験や、不快感を与えると想定される経験によって誘発された。これらの発見はbeacon-aiming行動が、外部からの視覚刺激のみならず彼らの内部状態によっても柔軟に制御されていることを示唆する。本研究で明らかになった種依存的・文脈依存的なナビゲーション戦略の多様性は、当該分野における比較アプローチの有効性を例証するものである。