私たちは自然に対して様々な感情を持っている。そして、その感情は社会・経済を通じて、また個人の保全活動を通じて、生物多様性に大きな影響を与える。しかし、自然に対する感情がどこから来るかという基礎科学的な疑問はほとんど検証されていない。環境心理学は自然と人間の心理的側面や、環境に対する選好性に関して多くの研究を行ってきた。しかしその多くが（生態学の言葉でいう）至近要因的な成果であり、究極要因に関してはE.O.ウィルソンによる『バイオフィリア仮説』とそこから派生したいくつかの仮説の提案以来、ほとんど検証が行われていない。つまり、なぜ私たちは特定の自然が好き/嫌いなのか？に対して、究極要因からの答えをほとんど持ち合わせていないと言える。
本発表では、近年発展が著しい進化心理学や進化精神病理学の知見を援用する。そのうえで、自然に対する心理的反応の進化的意義に関して、私たちの研究成果を紹介するとともに、未検証だと思われるトピックを整理し、暫定的な進化的仮説をいくつか提案したい。