| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-08  (Oral presentation)

琉球列島の林床棲ハエトリグモ類の種相比較と地理的遺伝構造
Fauna and geographic genetic structure of  Salticidae on forest floors in Ryukyus

*荒木葵, 江口克之, 吉田貴大(東京都立大学)
*Mamoru ARAKI, Katsuyuki EGUCHI, Takahiro YOSHIDA(Tokyo Metropolitan Univ.)

ハエトリグモ科は日本から120種以上が記載されており,基本的に種相の解明は進んでいる.しかし,隠蔽的な環境に生息する種の調査は遅れている状況にある.また,近年,沖縄本島,徳之島,奄美大島から目立った色彩のアカオビハエトリが新種として記載されたことから も,琉球列島の種相の調査は十分ではないと考えられる.つまり,琉球列島の密林の林床においては,種相の解明度は低いと考えられる.そこで,本研究では林床棲のハエトリグモ類を対象に,主要な島や半島部 の種相を明らかにして,その分布特徴の把握を試みた.また,分散能力の低い動物群の近縁種群の系統関係は,琉球列島の地史を反映することが知られている.そこで,  琉球列島全域に広域分布する林床棲ハエトリグモの属や種群に注目し,地理的遺伝構造を解明することを目的とした.
 林床棲ハエトリグモの種相解明のために,演者らは,大隅半島,屋久島,奄美大島,沖縄本島北部,久米島,石垣島,西表島,与那国島の7島1半島の落葉層で定量的な採集を行い,18種511個体を得た.これらの18種を林床種相の構成要素として,3島群間(北琉球,中琉球,南琉球)ならびに7島1半島間のJaccard類似度指数を求めた.さらに,林床種相の分布特徴の把握のために,文献記録と本研究結果に基づいて全種相(全生息環境の種相)の類似度指数も計算し,林床種相と比較した.地理的遺伝構造については,北,中,南琉球から採集できたアメイロハエトリ属を対象とした.mtCOI領域を配列決定し,MLおよびBI系統樹を推定した.さらに,地域間・クレード間の遺伝的距離(K2P)から分岐年代を推定し,琉球列島の主要な地史イベントとの照合を試みた.本講演では,以上の方法を踏まえて明らかとなった琉球列島の林床棲ハエトリグモの種相について説明するとともに,アメイロハエトリ属の地理的遺伝構造について議論する.


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