| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-01  (Oral presentation)

コムギ畑でつかまえてー 畑地雑草の種特性はホスト作物に捕らわれるー
Caught in the Wheat: How Farmland Weeds Are Shaped by Their Crop Hosts

*池上真木彦(国立環境研究所)
*Makihiko IKEGAMI(NIES)

世界には様々な雑草が存在するが、広範囲に分布する侵略的外来種の存在もあって、同じ環境では類似した雑草群落が形成されると考えられる。世界各地で見られる雑草群落の成立要因や特性への理解を深めることは、侵略的外来種雑草の影響を低減し、侵入を阻止する上で重要な知見を与えると考えられるが、その全球規模での理解は未だ不十分である。そこで本研究では、世界各地のコムギ・トウモロコシ畑に生息する雑草の生活型と開花フェノロジーに着目し、周辺植物、在来雑草、外来雑草の各々がもつ特性をデータベース化し、地域ごとに詳細な解析を行った。
解析の結果、雑草は周辺の植物に比べて一年草や越年草の比率が高く、作物の開花時期に併せた開花スケジュールを持つことが明らかとなった。また他地域へ進出した外来雑草は、一年草・越年草の比率がより高まり、その開花期がコムギの収穫時期に一致する傾向が示された。地域別にみると、地中海域では在来雑草の多くが春咲であるのに対して外来雑草の多くが秋咲であり、一方で北米・オセアニアでは在来雑草の多くが秋咲であるのに外来雑草は春咲の傾向が強いことも示された。これはそれぞれの地域における在来種の開花フェノロジーは異なるが、外来雑草はその原産域から種特性を変化させずにいることを示している。しかしながら、同じ種であっても外来雑草として生息している地域では開花時期が長くなる傾向も明らかとなった。
耕作地の環境は作物栽培に特化した環境であり、世界各地で似たような環境が整えられている。この「生態系」を用いれば、全球規模での種の分散過程とそこに働く種特性選択機構などへの理解が進むと考えられる。従って、本研究のアプローチは、雑草管理や外来種の拡大抑止といった応用側面だけでなく、生物地理学や群集生態学にも新たな知見をもたらす可能性があると考えられる。


日本生態学会