| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-03  (Oral presentation)

クローナル植物のイタドリで見られた糸状菌の一種は、種子を介し親子間で感染するか?
Does the species of filamentous fungus widely found in the parent plants of Fallopia japonica in the Tama region infect offspring through seeds?

*中野美希(東京都立大学)
*Miki NAKANO(Tokyo Metropolitan University)

 クローナル植物は、葉や花を持ちうる地上茎と根からなる植物体(ラメット)が、地下茎などで複数連結する植物の総称である。栄養成長によりラメットを生産する特性から、クローナル植物は病気に脆弱とされる。アジア原産のクローナル植物であるタデ科ソバカズラ属イタドリ(Fallopia japonica)については、Mycosphaerella polygoni-cuspidatiによるイタドリ斑点病の報告が日本では最も多く、腊葉標本および自生のイタドリでも、国内各地で発病を確認できた。しかし、今回の調査では既報とは異なる小斑点状の褐色病斑の病徴を示す個体が最も多く見られた。この褐色病斑から単離した糸状菌を、野外個体と健全個体のイタドリに接種したところ、野外で見られた病斑と同一の病徴が再現された。この糸状菌のrDNA-ITS領域のシーケンス結果は、BotryosphaeriaceaeLasiodiplodia属の塩基配列に酷似し、ITS領域の塩基配列を用いた系統解析の結果も、Lasiodiplodia属菌である可能性を支持した。以上より、イタドリで発生していた小斑点状の褐色病斑はLasiodiplodia属菌による病害だと判断し、この糸状菌の感染様式を解析した。
 感染ラメット由来の種子の発芽実験では、表面殺菌した種子としない種子のどちらからも健全個体が発芽し、種皮内の胚や胚乳を介した伝染の可能性は非常に低いと考えられる。また、感染ラメットの地上茎から発芽した全ての子ラメットで小斑点状の褐色病斑が発生した。さらに、感染ラメットの地際の地上茎内部からLasiodiplodia属菌が分離された。以上から、イタドリにおける当該菌の感染様式は、地上茎や地下茎を介した菌糸による拡散が一般的で、種子を介して子へ伝染する可能性は極めて低いと考えられる。


日本生態学会