| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-04  (Oral presentation)

植物観察へのデジタルデバイスの導入
Introduction of digital devices for the monitoring of plant ecophysiology

*宮沢良行(九州大学), 杉浦大輔(名古屋大)
*Yoshiyuki MIYAZAWA(Kyushu University), Daisuke SUGIURA(Nagoya University)

植物生理生態学で調べられることの多い、温度や光強度、土壌水分は、学術的な利用を想定したセンサーの他にも、様々な電子機器での計測が可能である。主にネット販売で散見するこうした電子機器には、安価で大量入手が容易であるという特徴はあるものの、計測精度などの信頼性が不明な、あるいは計測データの受信や記録法が分かりにくい機器も多く存在する。これら電子機器の使用法や有用性の情報を共有できる場があれば、学術研究での利用も進むと考えられる。しかし現在入手できる情報は、電子工作を趣味とする人々が開設したネット上の、しばしば誤植も多く真偽も定かでない情報に限られている。本講演では、ネット上で購入可能な電子機器を素材とした、樹液流センサーと、その操作や信号の受信記録を担う情報端末からなる計測システムの構築を例として、安価な電子機器の活用が拓く植物生理生態学の新たな展開の可能性を検証する。本研究で開発した樹液流センサーは、幹内で生じた熱パルスが周辺の材に引き起こす温度変化を、熱パルス源付近に設置した温度計で高精度に計測することで、樹液流速度を算出する。製作されたセンサーは高い温度分解能をもっており、樹液流速度の微小な日中推移を、既存研究で使用されてきた計測器と遜色ない精度で計測することができた。また情報端末の小型化や制作コスト削減によって多地点での計測システム設置が可能になったほか、多数の端末からのデータ収集に不可欠なインターネットへのデータ送信など、従来の計測システムではなしえなかった機能を備えることも可能となった。本研究によって、ネット販売で溢れる電子機器は既存の計測機器の安価で低質な代替品とは限らず、従来にない屋外計測をもたらしうる潜在性をもつ存在であることが示唆された。今後、研究者間での電子機器を用いた計測やセンサー製作の情報共有の場を構築し、こうした取り組みを推進するすべを議論する。


日本生態学会