| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-05 (Oral presentation)
植物の分布は過去の大陸移動や気候変動に伴う生育環境の変化に伴って大きく変化してきた。大阪周辺では、最終氷期には亜高山針葉樹林を構成する樹種、それ以降も現在はほとんど分布しないモミ・ツガ林が継続的に成林していた(古屋 1979)。これらの過程では、針葉樹と広葉樹で対照的な応答が確認されており、樹種グループによる温暖化や乾燥化への対応能力の違いがあると考えられる。また、北海道における森林動態データからも、近年の針葉樹の減少傾向が示されている(Hiura et al. 2019)。そこで、このような違いには、針葉樹と広葉樹の葉や樹冠における日射吸収特性の違いが影響しているという仮説を検討した。植物の葉の近赤外域(700~1200nm)の吸収率について,裸子植物、広葉樹、広葉草本、イネ科草本の分光測定データを取得し、光合成利用域(400~700nm)の吸収率との関係を解析した。その結果、針葉樹以外の植物では,日射からの熱吸収割合が最低値に収斂していたのに対して、北方系の針葉樹ではむしろ光合成に利用しない放射成分も吸収する傾向があり「黒い針葉樹」の葉は高緯度の低温・弱放射環境への適応的なメリットがあると考えられた。一方、葉面の赤外放射吸収の促進は、葉温や蒸散量を上昇、増加させる効果も大きい。過去の植生変動は気温変化と同時に降水レジームの変化に伴う乾燥化も大きな影響を与えた可能性が指摘されており(百原 2017)、針葉樹における日射吸収特性の多様性は、樹種毎の分布特性に大きな影響を及ぼしている可能性がある。