| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-07 (Oral presentation)
温帯に分布する一部の落葉樹は、冬季から春季にかけての日長の変化を認識し、冬芽の開芽時期を調節する。発表者らは、落葉樹7種を対象としたこれまでの研究で、この日長認識に関与する光受容器官には種間変異があることを明らかにした。また、光受容器官の種間変異は各種が生育している光環境の不均一性と関連していることを示唆した。本研究では、日長受容様式の種間変異が光環境の不均一性に応じて進化した可能性を検証するため、カエデ属11種を対象として光受容器官の種間変異と生育している光環境の不均一性の関連を調査した。まず、光受容器官を特定するために、切り枝を用いた器官特異的な遮光実験を実施した。(1)遮光なし、(2)冬芽のみ遮光、(3)枝のみ遮光、(4)冬芽と枝を遮光の4つの遮光処理を施し、処理間で開芽率を比較した。その結果、11種中8種が開芽の際に日長を利用しており、それらの種は冬芽のみで光を受容するタイプ(4種)、冬芽と枝と両方で光を受容するタイプ(4種)に分けられた。次に、開芽の際に日長を利用していた8種を対象に、生育地の光量子束度(PFD)の変動係数(CV)を種ごとに算出することで、生育環境の光の不均一性を評価した。また、遮光実験の結果をもとに、光受容における冬芽と枝への依存度をそれぞれ算出し、光の不均一性との関連を解析した。その結果、枝への依存度は光の不均一性と正の相関を示し、生育している光環境が不均一な種ほど枝への依存度が高いことが明らかになった。本発表では、各種の生育地における年平均気温や年間降水量といった光環境以外の環境要因と芽や枝への依存度との関連を検証した結果もふまえ、光環境の不均一性に応じた日長受容様式の進化について考察する。