| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-02  (Oral presentation)

ブナ開芽日の年変動に見られる集団間変異:晩霜日の標高・地形間変異に対する局所適応
Inter-population variation in annual variation of the budburst date in Siebold's beech: local adaptation to spatial variation of the late-frost date

*石田清(弘前大学), 大類瑞穂(弘前大学), 杉本咲(東北森林管理局)
*Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.), Mizuho ORUI(Hirosaki Univ.), Saki SUGIMOTO(Tohoku Regional Forest Office)

時間・空間的に変動する気候への樹木の開芽時期の適応進化についての知見は少ない。冷温期間と日長によって開芽日を調節するブナ集団が、気候の時空間的変動にどう適応しているかを解明することは、樹木の季節適応の理解に貢献する。これまでに演者らは、青森県八甲田山のブナの観察と圃場実験により、晩霜発生時期が遅い場所ほど開芽が遅いという遺伝的変異があることを解明した。本研究では、同山地12地点(標高450~900m)の11年間の観測に基づき、冷温期間(10/1~4/1の冷温日[気温0~5℃])の日数)と初期日長(積算温度が20℃日に達した日の日長)の年変動が、開芽積算温度、安全余裕度(開芽日-最終晩霜日)、及び後期温量増加率(最終晩霜日から開芽日までの積算温度[閾値5℃]の平均増加速度)に及ぼす影響について、標高・地形グループ間(斜面低地、斜面中間、斜面高地、盆地)の変異に注目して分析した。その結果、(1)開芽積算温度は冷温期間と初期日長の変動の影響を受け、両方とも負の相関を示した。これらの条件が同じ時に期待される開芽積算温度は斜面低地<斜面中間<斜面高地<盆地の順に高かった。斜面高地との有意差は斜面低地で見られた。(2)安全余裕度は冷温期間と負の相関を示した。盆地の安全余裕度は斜面より短く、斜面グループ間では有意差は認められなかった。(3)後期温量増加率は初期日長と負の相関を示し、斜面低地<斜面中間<斜面高地<盆地の順に高かった。斜面高地との有意差は盆地と斜面低地で見られた。斜面低地と高地で開芽積算温度に差があるにもかかわらず安全余裕度がほぼ同じであることは、斜面高地では初期日長が長くて後期温量増加率も高いために開芽積算温度の小さいブナが晩霜で淘汰されることを示唆している。盆地は春遅くに晩霜が起こるため開芽積算温度が小さいブナは淘汰されるが、盆地の短い安全余裕度は、晩霜と拮抗する淘汰圧が強いことを示唆している。


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