| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-04  (Oral presentation)

個体の流れ行列を用いた生命表反応解析:オオバナノエンレイソウを事例として
"Ecological impact assessment of Trillium camschatcense using life table response experiment and interstage flow matrix"

*横溝裕行(国立環境研究所), 富松裕(山形大学), 加茂将史(産総研), 高田壮則(北海道大学)
*Hiroyuki YOKOMIZO(NIES), Hiroshi TOMIMATSU(Yamagata Univ.), Masashi KAMO(AIST), Takenori TAKADA(Hokkaido Univ.)

生命表反応解析(LTRE)は、さまざまな環境要因によりもたらされる個体群成長率の差を個体群行列の要素の寄与に分解する分析手法である。しかしながら、従来のLTREでは個体群成長率の変化のみを評価し、生育段階間の個体の流れの変化に対する環境要因の影響については評価することはできなかった。そこで、本研究ではLTREと個体の流れ行列を組み合わせることにより、個体の流れに着目して、環境要因による生態系への影響を詳細に評価する手法を開発した。この手法はLTRE解析における個体群成長率を生育段階間の個体の流れに分解するものである。事例研究として、北海道のオオバナノエンレイソウ(Trillium camschatcense)のデータを用いて、LTREと個体の流れ行列を組み合わせることにより、生息地の分断や年ごとの環境変動が個体群成長率と個体の流れに与える影響を解析した。その結果、生息地の分断が個体群成長率に与える影響は小さい一方で、生息地が分断された個体群では、一葉期と三葉期の滞留に関する個体の流れが大きくなった。一方、分断された生息地では、繁殖に関する個体の流れに有意な変化は見られなかった。年による環境変動が個体群成長率に及ぼす影響は大きく、特に温暖な年において、一葉期の滞留に関する個体の流れの増加が個体群成長率の増加に大きく寄与した。これらの結果から、LTREと個体の流れ行列を組み合わせた解析を行うことにより、環境要因による生態系への影響に関する詳細な情報が得られることが示唆された。


日本生態学会